大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)125号 判決 1988年3月24日

原告 株式会社 商大自動車教習所

右代表者代表取締役 谷岡剛

右訴訟代理人弁護士 杉山博夫

同 久世勝一

同 平田薫

同 香月不二夫

被告 中央労働委員会

右代表者会長 石川吉右衞門

右指定代理人 福田平

<ほか三名>

被告補助参加人 全国一般労働組合大阪府本部 全自動車教習所労働組合

右代表者執行委員長 家田保

右訴訟代理人弁護士 河村武信

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。ただし、茅野広治、橋本作次、大木吉春、秋田忠義及び村井嘉治の補助参加の申立てにかかる費用は除く。)は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、中労委昭和四七年(不再)第三〇号及び同三一号事件につき、昭和四九年七月一七日付でした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  総評全国一般労組全自動車教習所労働組合(以下「申立組合」という。)は、原告を被申立人として、昭和四五年八月一二日、大阪府地方労働委員会に救済申立てをしたところ(昭和四五年(不)第五八号事件)、同委員会は、昭和四七年三月三一日付で別紙一のとおりの命令(以下「初審命令」という。)を発した。

原告は、右初審命令の救済命令部分を不服として被告に再審査の申立てをしたところ(中労委昭和四七年(不再)第三〇号及び同第三一号事件)、被告は、昭和四九年七月一七日付をもって別紙二のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、この命令書の写は同年八月五日原告に送達された。

2  被告の本件命令は、事実を誤認し、かつ、法令の適用を誤った違法があるから取り消されるべきである。

(一) 本件命令書の理由「第一 当委員会の認定した事実」欄記載の事実についての認否及び反論

(1) 1(当事者等)の(1)、(2)の事実は認める。

(2)① 2(本件発生に至るまでの労使事情)の(1)の①②の事実は認める。

② 同(2)の①の事実は認める。

同(2)の②の事実のうち、学校法人谷岡学園(以下「学園」という。)が申立組合の協力を受けたこと、申立組合の原告内に存在する分会(以下「分会」という。)が原告に対し協定書の追認を繰り返し要求したこと、原告が追認を拒否したことは否認し、その余は認める。右協定書は各条項の趣意について分会が不当な主張をしたため、合意に達しなかったものである。

同(2)の③の事実は認める。

同(2)の④の事実のうち、原告が協定書をようやく追認したことは否認し、その余は認める。

同(2)の⑤の事実は否認する。いかなる意味においても組合が愛車手当を要求したことはなかったし、原告が組合の要求を拒否したこともない。

(3) 3(時間内組合活動に対する賃金カットの変更)の(1)の事実は認める。

同(2)の事実のうち、「交渉会場の選定等で紛糾し」の点を除いてその余は認める。

(4) 同4(二部勤務体制の採用)の(1)の事実は認める。班制度は、従業員の調和協力及び業務の能率的遂行を図ることを目的としているのである。そして、商大分会員ら(以下単に「分会員ら」という。)を各班に一名ずつ配属したのは、分会員らの不就業率が極めて高く、しかも集団的不就業に及ぶため業務の能率的遂行の観点から、当該不就業による業務低下の危険率を分散させ緩和させるために採ったものである。

同(2)、(3)の事実は認める。

(5) 5(時間外勤務をめぐる労使関係)の(1)の事実は認める。

同(2)の事実は否認する。昭和四五年六月の段階では、二部制の実施については原告と分会が引き続き協議することになっていたのであるから、分会がこの問題について労働基準監督署へ調査依頼することはあり得ない。また、休憩の与え方の件で分会が労働基準監督署へ行ったのは昭和四七年三月である。原告は、労働基準監督署から、分会の申し出たいずれの件についても何らの措置、指導を受けなかったのであり、分会の申立ては敢えて原告の責任を作出しようという意図によるものである。

同(3)の事実のうち、分会が三六協定案は二部制を前提としているとして拒否したことを否認し、その余は認める。

同(4)の事実のうち、分会が遅出組について生ずる時間外勤務について協定を締結したいと申し出たこと、原告がそれを拒否したことは否認し、その余は認める。なお、技能検定業務を二部制実施後も所定時間内に行ったという点については、右実施当時、午後に検定業務を集中して行ったため時間割に混乱を生じそれを回避するため、一時期だけ所定時間内に行ったものであって、特段の事情の下に行われたにすぎない。

(二) 原告の主張

(1) 救済命令の名宛人について

本件命令の名宛人は、原告及び申立組合である。ところが、申立組合は、昭和五二年五月一二日原告に勤務する組合員を全員除名したので、原告内に申立組合の組合員は存在しなくなった。したがって、本件命令は、存在しない者を救済することを原告に命ずるものであって取消しを免れない。

(2) 本件命令の判断の誤りについて

本件命令は、「分会員の処遇については、暫定的とは言え遅出組に入れることで合意しているのであるから、二部制を前提としなければ分会とは三六協定の締結に応じられないとして、分会員に時間外勤務及び時間外に行なわれる検定業務をさせないということについては、その合理的理由を認め難く」、このような原告の措置は不当労働行為に該当するとしている。しかし、この判断は次に述べるとおり誤りである。すなわち、

原告は、所与の設備(コース、教習車両等)と労働力を十二分に活用して営業効率を向上するために、所定時間内勤務に関する二部制とそれを補完するものとしての時間外勤務という勤務体制を作り出したのである。そして、原告は、この勤務体制を採ることについて、分会及び原告内にあるもう一つの労働組合である商大自動車教習所労働組合(以下「労組」という。)に対して等しく提案し、わけ隔てなく協議や団体交渉を行ってきたところ、労組との間では合意に達したが、分会との間では右合意後も交渉を重ねたにも拘わらず妥結するに至らなかった。しかも、この交渉の過程で、分会は、二部制に関しては絶対反対にもかかわらず、思いつき的主張や言い掛り的主張によって交渉を取り繕っていたものであって、真摯な態度で交渉に臨んだものではなかった。そこで、原告は、分会員について所定時間内の勤務は従前のままとし、労組員の従事する二部制との調整は遅出組に組み入れることとして扱う一方、時間外勤務に関する協定は分会との間に存しないのであるから、時間外勤務はさせないという扱いにしたのである。また、原告が分会員らを遅出組の勤務時間に組み入れたというのは分会員らの従来からの勤務時間帯を継続したにすぎず、時間外勤務に関し何ら協定が成立していたわけではないから、原告には分会員らに対して時間外勤務を命じ得る権利も義務もないのである。しかも、原告は、二部制とこれを補完する時間外勤務という体制を望ましいものとして斉一化を図る方針から一貫してこの勤務体制を採ることを提案していたのであって、労組員らの勤務する二部制の遅出組と同じ時間帯に勤務しているからといって、当然に時間外勤務を行わせなければならない理由もないのである。このように、時間外勤務について分会と労組との間に差が生じたのは自由な取引活動によって生じた結果にすぎず、また、原告が二部制とそれを補完する勤務体制が望ましいと考え、勤務体制の斉一化を図ったにすぎないのであるから、原告が分会員らに時間外勤務や時間外に行われる検定業務を行わせないからといって、何ら不当労働行為を構成することはない。

(3) 本件命令の主文について

① 本件命令主文第一項について

本件命令主文第一項は、労働委員会規則四三条二項に定める「履行方法の具体的内容」を明示したものとはいえず、無効である。すなわち、本件命令は、原告に対し検定手当相当額については「過去の検定業務の実績を勘案して」、時間外勤務手当相当額については「分会員の過去の時間外勤務の実績を勘案して」、計算して支払うことを命じているが、右にいう過去の実績とはその期間の明示すらなく、また、勘案するとしても過去の実績を最高とすべきか、平均とすべきか、最低とすべきかについて何ら明示するところがないのである。現に本件命令の解釈をめぐって、昭和四五年四月から六月までの三か月の平均をもって相当額とする考え方、当該業務繁閑の時季を含めた一年を通じての平均額をもって相当額とする考え方、前年度応当月の額をもって相当額とする考え方が生じているのであって、その解釈いかんによっては結果において二倍に近い数額の差を生ずるのである。そのため、この救済命令の履行について原告と組合・分会間に新たな紛争を発生させることにもなっている。しかも、確定判決により支持された救済命令に違反した場合には禁錮・罰金の刑に処せられることになっていることからすれば、命令の名宛人においてその履行に疑義を生ずるが如き命令文は許されないものといえるのである。したがって、本件命令主文第一項は、右規則に定める「履行方法の具体的内容」を明示したものとはいえず、無効である。

さらに、本件命令主文第一項は、分会員につき、二部制勤務に服することを承諾していないにもかかわらず直ちに時間外勤務をする機会を与えることを前提とするものであり、これは分会員には早出勤務及び交替勤務を免除しながら、時間外勤務の機会のみは労組員と同様に与えようとするものである。このことは、労組員より分会員を優遇する取扱いを命ずることであり、このような逆差別を命ずることは正義と公平に反するものであって、被告の裁量権の範囲を逸脱している。

② ポストノーティスについて

本件命令は、初審命令が原告に対して命じたポストノーティスを維持している。初審命令中のポストノーティスは、別紙一のとおりであるところ、このような謝罪を内容とするポストノーティスを命ずることは憲法一九条が保障する良心の自由を侵すものであって無効である。すなわち、憲法一九条にいう良心の自由とは単に事物に関する是非弁別の内心的自由のみならず、かかる是非弁別の判断に関する事項を外部に表現する自由並びに表現せざる自由をも包含するものと解すべきであり、国家権力が人の本心に反して事の是非善悪の判断を外部に表現せしめ、心にもない陳謝の念の発露を命ずることは、まさに右良心の自由を侵すことになるのである。したがって、被告の行政処分たる救済命令についても、そのような謝罪・陳謝の権力による強制は許されないのであって、本件の如きポストノーティスは無効というべきである。

なお、最高裁大法廷昭和三一年七月四日判決(民集一〇巻七号七八五頁)は代替執行という方法による強制執行が可能である事例に限り合憲性を肯定したものであるところ、代執行の要件のうち、その不履行を放置することが著しく公益に反するとの要件を満たすとはいえず、結局代執行をなす途のないポストノーティスには右判決の論理の適用の余地はないのである。

3  よって、原告は本件命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否(被告)

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

本件命令は適法に発せられた行政処分であって、処分の理由は別紙二本件命令書理由記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

三  被告の主張

1  本件命令の名宛人について

本件命令の名宛人である組合は、昭和五二年五月一二日以降事実上分裂し、総評全国一般労組大阪地連全自動車教習所労働組合という同一名称を唱える家田保を執行委員長とする補助参加人と杉岡克己を執行委員長とする組合の二つの組合が生まれ、そのうち分会を下部組織にもつ補助参加人は、昭和五五年一一月七日、組織の上部団体の名称変更に合わせ、現名称に変更している。ところで、本件において不当労働行為と認められる差別取扱いを受けた労働者は分会員らであり、その分会員らが所属している組合は補助参加人なのである。このような実体を有している補助参加人こそが本件命令の名宛人たる組合と同一性を有しているものといえるのである。したがって、原告内には名宛人たる組合は存しないとの原告の主張は理由がない。

2  本件命令の判断について

原告は所定時間内勤務に関する二部制と時間外勤務は一体となる勤務体制である旨主張するが、二部制と時間外勤務とは直接関係なく、二部制を前提にしなければ三六協定を締結し得ないものではないのである。

3  本件命令主文について

(一) 本件命令主文第一項について

(1) 主文が不明確であるとの主張について

本件命令主文第一項は、名宛人たる原告に対し、不当労働行為と認められた時間外勤務拒否・検定業務拒否がなければ受け得たであろう相当額の誠実な支払いを命じたものと解することができるのである。すなわち、名宛人たる原告は、誠実に、時間外勤務拒否等がなければ受け得たであろう相当額と考えたものを支払いさえすれば、その額が客観的に確定されるべき右相当額と合致していなくとも過料等の制裁を受ける危険を負わない反面、全く支払わないかあるいは支払ったとしてもその額が到底誠実に右相当額と判断したところに基づくとは認められないような場合には、過料の制裁を免れ得ないと解されるのであり、かように解することによって、使用者の多様な不当労働行為に対してその是正を求める救済命令の目的を達成することができるからである。したがって、本件命令において、原告に課した「過去の実績を勘案して計算した手当相当額の支払い」という義務内容が一義的に明白ではないとしても、必ずしもこれを内容不特定のものとして無効ということはできないのである。現に本件命令について発せられた緊急命令に関して、原告に不履行の問題は生じていないのである。

(2) 逆差別の主張について

本件命令主文第一項は、単に原告の行った時間外勤務拒否等という不当労働行為による経済的不利益取扱いについて原状回復を命じたにとどまるのであり、また、時間外勤務と二部制勤務とは直接関係ないのであるから、労組との関係で逆差別を生ずることはなく、裁量の範囲を逸脱するものではない。

(二) ポストノーティスについて

ポストノーティスは、不当労働行為に対する救済方法の一つとして、労働委員会の裁量によって用いられているが、それは、使用者の行為が労働委員会によって不当労働行為と認定された事実を関係者に周知徹底せしめ、将来同種の行為の再発を抑制することを主眼とするものである。したがって、ポストノーティスの文言中に「陳謝」又はこれに類する文言が用いられているとしても、それは、使用者に倫理的な意味での「陳謝」ないし「謝罪」の意思表白を要求することを本旨とするものではないのである。このように、ポストノーティスは使用者に対し憲法一九条によって保障された良心の自由を侵すものではない。

四  補助参加人の主張

(本件命令の名宛人について)

本件命令の名宛人は補助参加人であり、現に原告内に存在しているのである。このことは以下の事実から明らかである。

(一) 本件命令の名宛人は申立組合である。ところで、その名称のうち「総評全国一般労組」は全国単産としての所属を意味し、「大阪地連」はその地方における上部団体を示しているにすぎず、全自動車教習所労働組合が組織単位として独立した法人格を有するものであって、同組合が救済申立てを行ったのである。

(二) ところで、本件命令は、実質的に分会の団結権侵害を問題としているのである。すなわち、

(1) 全自動車教習所労働組合は、業種別に組織された労働組合であり、主な加盟形態は企業別団体加盟であって、その企業別の団体は分会を構成している。そして、分会は、当該企業との間で団体交渉を行うことはもとより、合意したところに応じて、分会名義で協定書を締結し、分会単位で争議を行うことも稀ではないのである。

(2) 本件についてみれば、本件命令は、分会に対する侵害、分会員らの蒙った不利益について原状回復を命じて救済を図っているのであって、本件命令の実質上の名宛人は分会といえるのである。

(三) 申立組合は、昭和五二年二月から六月にかけて事実上の分裂状態となったが、補助参加人こそが申立組合と同一性を有する労働組合である。すなわち、

(1) 分裂の経緯

全自動車教習所労働組合とその上部団体である総評全国一般労組大阪地方連合会は昭和五二年二月から六月にかけて事実上分裂した状態に陥ったが、これは、全自動車教習所労働組合の南大阪自動車教習所分会の事業所閉鎖に伴う全員解雇に関する争議の解決方針をめぐる意見の対立を契機にしたものであった。右意見の対立が表面化し始めた昭和五一年一〇月当時、申立組合の杉岡克己ら多数派は、意見の相違する分会、執行委員、組合員に対し組合規約にない組合活動上の排除措置を採り、同五二年二月からは該当分会や組合員の組合費を受領しないという権利停止ないしは除名処分に相当する措置を採った。そして、杉岡克己を長とする多数派は、同年五月一二日、組合規約を全く無視して「臨時大会」なるものを召集して、規約を改正するとともに、意見の対立する者八七名を除名する旨の決議をしたのである。「除名」された八七名は、多数派が臨時大会において「改正」の名のもとに規約を制定して、従来の申立組合を集団脱退したものと理解し、多数派によって「除名」されなかった五名を加え、九二名をもって、同年六月二三日再建大会を開き、新執行部を選出するなどして、従来の規約にのっとり、活動を開始したのである。こうして、申立組合は、補助参加人として同一性を維持しつつ再建されたのである。

(2) 補助参加人は、本件命令の各宛人である申立組合と同じ構成員で組織され、同じ規約を有し、活動方針についても重要な基本的部分において共通した方針を堅持しているのである。因に、杉岡克己を代表者とする全自動車教習所労働組合は、組合規約を法外組合となるべく改めるなど四〇余点にもわたって改め、執行部の権限を強化し、一般組合員の権利保障を後退させた集権的で非民主的な組合となっているのである。

(四) このように、本件命令の実質的な名宛人は分会といえるのであって、その分会が補助参加人に属していること、申立組合の分裂状況、申立組合と補助参加人との規約等が同一であることからすれば本件命令の名宛人は補助参加人組合といえるのである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  当事者等

1  原告が肩書地において自動車運転免許証取得のための技能指導を行う自動車教習所を経営し、被告審問結審時その従業員数が約五〇名であったことは当事者間に争いがない。

2  申立組合が、被告審問結審時大阪及び京都府下の自動車教習所の労働者で組織され、その組合員数が約六〇〇名であったこと、申立組合の原告内の下部組織である分会が原告の従業員六名でもって組織されていたことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は、申立組合が本件命令後である昭和五二年五月一二日分会員六名を除名したので、原告内には申立組合の組合員は存在せず、したがって、本件命令は取り消されるべきであると主張するのでこの点について判断する。一般に救済命令等の取消訴訟では、不当労働行為の成否に関する事実認定及び法解釈並びに救済の必要性についての判断は、救済命令が発せられた時点(処分時)を基準としてその適否を判断すべきものである。したがって、命令後の事情変更は訴えの利益の問題として考えられるのであって、原告の右主張は本件命令の取消事由の主張とは成り得ない。しかし、本件命令は、申立組合に所属する分会員を検定業務・時間外勤務に従事させること、分会員に対し手当相当額を支払うことと申立組合を名宛人とするポストノーティスを原告に命じているところ、これらの行為のうちには分会員が一人も居なくなれば、それ以後は不能ないし無意味となるものもあると解されるから、その範囲においては本件命令は拘束力を失い、その取消しを求める訴えの利益も消滅すると解される。そこでまず、本件において原告内に申立組合の組合員が存在するや否やについてみる。《証拠省略》によれば、申立組合は、その上部団体「大阪地連」内における意見対立の影響を受けて、昭和五二年二月ころから、運動方針をめぐって内部対立が生じ、事実上の分裂状態に陥ったこと、その結果家田保を執行委員長とする補助参加人と杉岡克己を執行委員長とする組合が存在するに至ったこと、なお、当初両組合はいずれも申立組合と同一の名称を使用していたが、その後補助参加人は現名称に変更したこと、補助参加人は、現在、従前上部団体である「総評」に属してはいないものの、申立組合の組合規約を承継し、活動方針も重要な部分において申立組合のそれを引き継いでいること、また、本件命令が救済している分会員らはいずれも補助参加人に属していることが認められ、これら補助参加人と申立組合との規約、活動方針の同一性等に照らすと、補助参加人は申立組合と同一性を有していると言える。したがって、補助参加人は申立組合と同一性を有し、かつ、原告内に分会員らを有しているのであるから、原告内には申立組合の組合員は存在しないとの原告の主張は理由がない。なお、《証拠省略》によれば、杉岡克己を執行委員長とする組合は申立組合との同一性を主張して補助参加人に所属した組合員を全員除名したと教宣し、その旨の教宣活動を行っていることが認められ、また、補助参加人が申立組合とその上部団体を異にしていることは前示のとおりであるが、右補助参加人と申立組合の規約、活動方針の同一性等に照らすと右事実をもって前記認定を左右するものとはいえない。

ところで、原告は、補助参加人の補助参加の申立てにつき異議の申述をなしているが、その趣旨は、補助参加人が従前の補助参加人である申立組合と同一性を有すると主張して更に補助参加の申出をしたのに対し、原告は、補助参加人と申立組合との間には同一性はないから補助参加人に補助参加を許すべきでないと主張する趣旨と解される。とすれば、原告の右異議の申述は、民訴法六六条にいう異議と異なり当事者の同一性に関する主張というべきところ、補助参加人組合と申立組合の間に同一性があること右認定のとおりであるから、原告の右主張は理由がないことに帰する。

3  原告内には、分会のほかに労組があることは当事者間に争いがない。

二  不当労働行為の成否について

原告は、原告が分会員らに時間外勤務を命じなかったのは、申立組合あるいは分会との間に時間外勤務に関する協定が締結されなかった結果にすぎず、また、分会員らが二部制の遅出組と同一の時間帯に勤務しているからといって時間外勤務を命じなければならない理由はないと主張して、被告の認定、判断を争うのでこの点について判断する。

当事者間に争いのない事実、《証拠省略》を総合すると以下の事実が認められる。

1  原告は、昭和四五年二月一五日技能指導員四〇数名を六班に分けた。当時七名であった分会員は二名配属された一部の班を除き各班に一名ずつ配属された。

2  原告は、昭和四五年三月「中期経営方針について」と題する小冊子を全従業員に配布し、二部制を勤務体制として導入する方針を明らかにした。二部制という勤務体制は、従来の勤務時間である午前一一時二〇分から午後八時二〇分までを、①午前八時三〇分から午後五時三〇分までの早出組と、②午前一一時二〇分から午後八時二〇分までの遅出組とに分け、早出組には二班を、遅出組には四班をあて、二週間遅出組に属した後、一週間早出組に属するというサイクルで交替するものである。原告がこのような二部制を採用した理由は、自動車教習所は法令によって施設に見合う教習車輌台数が制限されていて、原告の教習所は三七台をもって限度とされていることから、より多くの受講生を収容して収益をあげるためには営業時間を延長するほかないので二部制によりその実現を図るというものであった。

原告は、その頃、原告の職制、分会及び労組の役員によって構成される労使協議会を開催して二部制の導入について説明した。分会は、当時行われていた春闘の団体交渉の席上、原告の右二部制導入案について、早出・遅出の交替があるため生活のリズムが崩れて健康を損うおそれがあること、二部制といっても結局は午前八時三〇分から午後八時二〇分まで働かされる危険があること、また、二部制になれば分会員らの休憩時間がばらばらになるため休憩時間を利用しての組合活動が困難になることを理由に反対を表明した。これに対して、原告は、二部制を導入することによって生ずる生活リズムの混乱は時間の経過とともに慣れてしまうことなどを挙げて分会の協力を要請したが、二部制導入についての合意が成立するに至らなかった。

労組は、昭和四五年五月一四日原告の二部制導入案を了承した。

3  従来原告と分会との間に時間外勤務及び休日労働に関する労働基準法三六条の協定(以下「三六協定」という。)が締結されたことはなかったが、分会員は労組と原告との間に締結された三六協定の内容に従って時間外勤務を行ってきた。

ところで、原告は昭和四五年六月一二日分会及び労組に対して同一内容の三六協定案を示して、締結方を要請するとともに、合わせて同月一六日から二部制を実施する旨通知した。この三六協定案は二部制を採用した際に欠員が生じた場合の補充を行うことを目的にしており、内容的には二部制を前提としたものになっている。

4  右通告に接した申立組合執行委員長新島重吉は、同年六月一五日、原告代表者代表取締役谷岡剛と会談し、申立組合及び分会の反対を押し切って二部制を実施することにしたことを強く非難するとともに、その実施について話し合った。その結果二部制については今後とも審議を重ねるとともに、同年六月一六日以降については、分会員は暫定的に従来の勤務時間帯と同じ遅出組に属して勤務することとし、早出勤務は行わないことになった。

なお、労組は、同月一五日原告の右三六協定案を了承し、協定を締結した。

5  原告は、同月一六日以降二部制を実施し、労組員に対しては時間外勤務を命じたが、分会員に対しては三六協定が締結されていないことを理由に時間外勤務を行わせなかった。

さらに、原告は、技能検定のための特殊免許状を有する分会員茅野広治及び同橋本作次が技能検定業務に就くことも、同業務が勤務時間外になされていること及び分会との間に三六協定が締結されていないことを理由に拒否した。このため分会員らは時間外勤務手当収入を失うに至った。そして、右茅野及び橋本は技能検定業務に伴う収入(受講生一人当たり四〇円)も失うに至った。

6  分会は、昭和四五年七月原告に対し、先に原告が提示した三六協定案を締結したい旨申し入れたところ、原告は、分会が早出勤務を前提とした時間外勤務に合意しないのであれば三六協定はできない、分会が二部制を認めなければ三六協定を締結しないとの態度であったため、二部制に反する分会との間に三六協定は締結されなかった。

原告としては、二部制と時間外勤務は内容的に関連するが、切り離せないものとは考えていなかった。

7  なお、原告における時間外勤務は、従業員(技能指導員)の方からあらかじめ時間外勤務の希望を採り、生徒がいれば配車を予定し、生徒がいなければ配車しないという形でなされていた。

また、検定業務は時間外に行うのを原則とし、この場合には業務命令をもって命じている。もっとも、昭和四五年八月の検定業務は勤務時間内に行われたこともあったが、分会員である右茅野及び橋本には検定業務に就くようにとの指示はなかった。

8  二部制は、その後インターバルの時間の変更等若干の変更はあったものの、制度としては維持され、分会も本件命令後の昭和五〇年一一月一三日ころからは二部制勤務についている。また、分会は、昭和四七年四月ころ、原告との間で昭和四五年六月当時の三六協定案と基本的には同内容の三六協定の合意をし、昭和四七年四月一六日から右合意の有効期限である同年六月一五日までの間、時間外勤務を行ったが、その後は時間外勤務についていない。

以上の事実を基礎に検討する。まず、二部制と時間外勤務との関係をみるに、時間外勤務が二部制を採用した場合の欠員補充の役割を有するとしても、時間外勤務は従業員からの希望があった場合に命じているという取扱い、分会も昭和四七年四月一六日から二か月間は遅出組に属しながら時間外勤務についていたこと、しかもその間特段不都合があったとの事情もないこと、原告自身二部制と時間外勤務を切り離せない制度とは考えていなかったことなどからすると、二部制と時間外勤務とは、内容的に関連はするものの、必ずしも一体として扱う必要性は認め難く、原告が二部制と時間外勤務とは一体であるとの態度に固執することに合理性は認められない。してみれば、原告が申立組合及び分会に対し、二部制を前提とする三六協定案を提示し、更に申立組合らが二部制に合意しないことを理由に三六協定の締結を拒否して時間外勤務を命じなかったことに合理的理由は見い出せないし、二部制に合意している労組とこれに反対する申立組合及び分会とを同一に取り扱った結果にすぎないともいえない。また、検定業務については、原則として勤務時間外に業務命令をもってなされるところ、原告は勤務時間内になされた検定業務にも分会員茅野広治及び同橋本作次にはこれを命じていないこと、原告が三六協定を締結しないことに合理的理由が見い出せないことに合理的理由もない。そして、かような原告の三六協定締結拒否による時間外勤務や検定業務からの分会員らの排除は、合理的理由のない申立組合の組合員であることを理由とする不利益取扱いであり、申立組合に対する支配介入に当たるというべきである。したがって、この点に関する被告の認定及び判断に誤りはない。

三  本件命令の主文について

(一)  本件命令の主文第一項について

(1)  本件命令主文第一項は「過去の実績を勘案して」時間外勤務手当及び検定業務収入の相当額の支払いを命じているところ、原告は、右履行方法の表示では労働委員会規則がいうところの「履行方法の具体的内容」を示しているものとはいえず、内容不特定な命令であって無効である旨主張するのでこの点について判断する。本件命令主文第一項の「過去の実績を勘案して」との履行方法については、本件命令全体からしても「過去の実績」の採り方、「勘案」の具体的内容等は判然とせず、しかも記録上明らかなとおり本件命令にかかる緊急命令発布に際し、「過去の実績の勘案」の方法について被告、分会及び原告が、「過去一年の平均」「過去三ヶ月平均」「前年応当月」の実績をそれぞれ主張して、意見が分かれ、そのいずれを採るかによって二倍近い差を生ずることからしても解釈が多義にわたる内容といえる。しかし、救済命令制度は、使用者による多様な不当労働行為によって生じた侵害状態を救済命令という行政処分によって直接是正し、正常な労使関係秩序を迅速に回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対応していくため、労使関係について専門的知識を有する労働委員会に対し、その裁量により個々の事案に応じた適切な是正措置を決定しこれを命ずる権限を与えたものと解されること、そして、救済命令はそれを受けた使用者にとって、その履行内容、方法が一義的であることが望ましいものではあるが、多様な不当労働行為に対する迅速な救済をはかる趣旨から、その命令主文がある程度弾力的、抽象的、多義的にならざるを得ない場合があることは避け難いところである。かような弾力的、抽象的、多義的な命令の履行については、右制度の趣旨を十分考慮し、当該労使関係において労働委員会が命じた原状回復措置、正常な労使関係秩序の回復措置に合致するものである限り、救済命令の履行としては足り、内容の不明確性の故に命令自体を無効とすべきではないと解される。そこでかような観点から本件命令主文第一項をみるに、同命令は原告主張のとおり解釈の違いにより支払うべき金額に二倍近い差を生ずるという多義性をもつということができるとしても、その履行ができない程に内容が不特定ということはできず、この程度の多義性は、命令を無効とすべき理由とはならない。現に、緊急命令の履行について被告から不履行通知がなされていないのである。

してみると、原告の右主張は理由がない。

(2)  次に原告は、本件命令主文第一項によれば、二部制の早出組勤務をしない分会に時間外勤務を認めることになり、早出組勤務をする労組に比して有利に扱うもので逆差別を生ずる旨主張するのでこの点について判断するに、時間内勤務に関する二部制と、時間外勤務が必ずしも一体のものであるとはいえないこと前示のとおりであり、また、二部制に勤務する労働者が、遅出組のみの勤務をする分会員に比し労働条件において特段の不利益を受けているといった事情もないのであるから、右命令は差別の廃止を命ずるにとどまり、逆差別を命じているとはいえず、裁量の範囲を超えるものとはいえない。

(二)  ポストノーティスについて

原告は、本件命令は、初審命令が命じたポストノーティスを維持しているところ、右ポストノーティスは陳謝を内容とするものであって内心の自由を侵害するものであるから憲法一九条に違反し無効である旨主張するので、この点について判断する。本件命令は、別紙一初審命令第三項において命じたポストノーティスを維持するものであり、その内容は、原告が行った不当労働行為に関して、原告は申立組合宛てに、「不当労働行為であったことを認め、ここに陳謝するとともに、以後このような行為をくり返さないことを誓約いたします。以上、大阪府地方労働委員会の命令により掲示します。」との文言を縦一メートル、横二メートルの白色木板に墨書して本社正門付近に一週間掲示せよというものである。ところで、右文言中に用いられている「陳謝」という語は、一般的に「謝罪」という語と同じように、倫理的非難に値いする行為について、その非を自認するという心情を外部に表明する行為を意味している。使用者の特定の行為が不当労働行為に該当すると判定された場合、その行為が倫理的価値基準に照らしても非難されるべきか否かは、立場によって意見が別れる問題であろうが、労働委員会に期待されている役割とは領域を異にする問題であると考えられる。また、「陳謝」という行為は、法的強制のみならず、およそ強制に親しみ難い行為であると考えられる。したがって、救済命令において、このような倫理的かつ心情的行為を命ずることは、右の二重の意味において不適切である。しかし、ポストノーティスという救済命令の目的は、不当労働行為とされた事実を関係者に周知徹底させ、同種行為の再発抑制を主たる目的とするものであることは明らかであって、別紙一の本件初審命令第三項も、全体として読めば、「ここに陳謝するとともに」という文言は、これに続く「以後このような行為をくり返さないことを誓約いたします。」という約束文言を強調する修辞の意味で用いられていると解される。原告自身も初審命令に対する再審査の段階においては、被告に対し、ポストノーティス中の右文言の是非について格別の主張をした形跡はない。してみれば、初審命令が掲示を命じた文言中に「ここに陳謝するとともに」との文言を用い、被告がこれを維持したことは、適切ではないが、右ポストノーティス命令が全体として原告の良心の自由を侵し、憲法一九条に違反するものとまでは解し得ない。

したがって、原告の右主張は理由がない。

四  以上のとおりであるから、本件命令には原告が主張する取消事由は認められず、適法な命令というべきである。よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。ただし、茅野広治、橋本作次、大木吉春、秋田忠義及び村井嘉治の補助参加の申立てにかかる費用は除く。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九四条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石悦穂 裁判官 納谷肇 裁判官遠山廣直は転官のため署名捺印できない。裁判長裁判官 白石悦穂)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例